第3章 距離
~茅野side~
自宅に帰るとすぐに部屋に駆け込み、くまを抱き締めて顔を埋める。
大きな溜め息は、ぬいぐるみにくぐもって口元を熱くしながら消えていった。
(わたし、ほんとにこれでいいのかな
…勝己や、出久に対して)
あっという間に過ぎて行った2年間。
今やもう小学3年生にまでなったが、思い返せばその間にはしっかりと沢山の出来事があった。
いつ起こるのだろう、と思っていたイベントは、さほど時間をかけることなくすぐにやってきた。
入学して間もない頃。
まだこんなにも小さいというのに、社会の流れのせいか
既に友達ですら個性で決まってしまうようで、強個性でさらに明るい性格である茅野と勝己には友達が集まり、
反対に無個性で地味な出久には人は集まらなかった。
それほどに、この世界では個性が重要なのだと
茅野はこの時初めて理解した。
茅野は女子の友達もたくさんいたが、登下校や放課後、勝己達と過ごすことはやめなかった。
勝己、勝己の後ろについて回る同じみの三人、茅野、そして出久。
入学して3日も立たずにその顔ぶれをみた茅野は、すぐに察した。
『なぁ、出久の漢字って
"デク"っても読めるんだぜ』
出久への態度が、だんだんと変わっていくことを。
『すげぇかっちゃん、漢字読めるの!?』
『読めねぇの?
そして、デクってのはなんにもできない木偶の坊のことを言うんだぜ』
『やめてよかっちゃん…!!』
自慢気な、自信に溢れる勝己の声。
出久を小馬鹿にするような空気。
茅野は止めようと思った。
…思ったのに。
(私は
この世界の、人間じゃない
勝手に物語を動かしては、いけない)
そう、思ってしまったのだ。
茅野は、出しかけた言葉を引っ込めて、
うつむいて無力さに唇を噛み締め
ただただ"物語を見つめる一人の読者"としてその風景を眺めた。