第2章 知らないこと
『はぁぁぁ………』
静かな空間に、肺の空気を全てはきだしたのかというほど盛大な溜め息を溢したのは、紛れもなく茅野だ。
話し掛けても一向に返事がなく、
自分達を見向きもせずにただただ無言で歩き続ける茅野に、二人は諦めて話し掛けるのを止めた。
まだ幼稚園児で血気盛んな時期だというのに、
どうにも奇妙な雰囲気に包まれていた中。
その雰囲気を作り上げた張本人が急に溜め息をついたのだ。
幼稚園児男子二人は、頭に疑問符を浮かべた。
幼稚園に、いや高校生にだってわからないだろう。
「…茅野?どうしたんだよっ」
その空間で第一声をあげたのはやはり、爆豪だった。
問いながら、小首をかしげてのぞきこむ。
それに続いて緑谷も彼女をのぞきこんだ。
その表情は、影に隠れて読み取れない。
純粋無垢なDY(男子幼稚園児)達は、さらに首をかしげてのぞきこんだ。
そして、それにやっと茅野は気付く。
隣にいた爆豪と目が合って、完全にフリーズしてしまった。
不思議に思ったDY爆豪勝己は、茅野の柔らかそうな頬をぷにぷにと指でつついて返答を待った。
茅野の大きな丸い瞳が、さらに大きく開く。
爆豪はこんなに目って開くのか、すげぇ!!と思ったが
何かを読んでそれを口に出さなかった。
次に茅野の口が、パクパクと動く。
緑谷はおさかなみたい、と思ったものの
こちらも何かを察して口に出さなかった。
『………っま…………』
やっと出た茅野の小さな声を聞き取ろうと、二人は耳を近付ける。
「「マ??」」
『マセガキめーーーーっ!!!!』
そう、一人で叫んで
もう目に見えていた自宅に一人駆け出して行ってしまった。