第1章 手を繋ぐのは誰のためでしょう
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深い呼吸と同時に上を向く。
私の吐いた息が真っ黒な空に、細く白く奪われていく。
黒と白しかないような世界が一気に色づいた気がした。
けれどこれは気だけではないのかもしれない。
真っ黒な髪、瞳、黄味がかっているものの白い肌をもつ、日本人の私には。
つまりはモノクロの世界で生きてきた私には、今目に映ったものは鮮やかすぎてしまう。
イギリスさんのもうよく見慣れた金色の髪に淡い緑の瞳。それが涙の薄い膜に覆われていて、チラチラと街灯に照らされて光っている。血が透けて見えそうなほどの白い肌には赤がさしていて、普段は薄桃色に色付く唇もより彩度を増しているのだ。真赤の唇と真白い歯のコントラストが綺麗。
そう、思わずため息が出てしまう程に。
瞬間、私の手がじんわりと暖かくなった。
緊張で、まさに氷のように冷たくなったわたしの手を溶かしていくようだと感じた。震えが段々とおさまるのを感じつつ、また、ギュッと胸が締め付けられるくらいの愛しさを覚えた。ありったけの好きを込めて握り返した。
素直じゃないイギリスさんの、最大限の愛をしっかりと受け取らねばならない。
「勘違いすんなよ、コートで手を暖めておいたのはお前のためじゃないんだからな。
俺がお前と気持ちよく手を繋ぎたいからで、....あー、つまりは、俺の、ためだ。」
ほら、そっぽ向かないでください、なんて笑いかけてみれば、薔薇を見詰めている時のような,慈愛に満ちた目でみてくる。
嫌いだった冬も、貴方の暖かさの隣なら好きになれそうだと思った。