第1章 <気になる奴>
『…貴方どこかで見たことが……』
「…………」
『あ、思い出した。この国の国王様ですよね確か』
「アァ、そうだ。こんな所に店開いてる奴が気になって来た」
『そうだったんですね。じゃあ薬は必要無いということで?』
どんな奴か気になって来たので、彼女を一目見ただけで用は終わった。……筈なのに、長い髪を耳に掛けながら接客をするコイツから目が離せなくて、まだここに居たいと思った。
今まで女に対してそう思ったことは無いので、こういう時どうすれば良いのか分からねェな…。
何か適当に買って行こうと思い、丁度今日は女と夜を過ごすから避妊薬を買おう。
「避妊薬は置いてあるか?」
『…はい』
そう聞いた瞬間、さっきまでの柔らかい物腰とは打って変わって顔の表情筋が一気に動かなくなった。何なんだ、コイツ。その一言に尽きる。
『どうぞ』
「…何か怒ってるのか?」
『いえ別に。ただ貴方が、女遊びをしているという噂は本当だったんですね』
「だったら何か問題でもあるっていうのか」
『私にとっては大問題です。女を取っかえ引っ変えしてる男性は嫌いです』
「…………」
キッパリとそう言い切るこの女に、柄にもなく呆気に取られる。……コイツ、俺の事が怖くねェのか。表情筋1つさえ動かないこの顔が、他にどんな表情をするのか更に興味が湧いた。
「また明日も来る」
『…は?』
今日の所は、この後やらなきゃならねェ仕事ってもんがある。もう少しここに居たかったが……仕方ない。俺の身長では屈んで出ていかないと出入れが出来ない扉をくぐって、薬局を後にする。
そういえば。
「名前くらい聞けば良かったか…」