第2章 この世界
気がついてみるとしゃべる狸は仮面をつけた変な人に捕まっていた。
「はいはい、反抗的な使い魔はみんなそう言うんです。少し静かにしていましょうね。」
「ふがふが!」
しゃべる狸は口を手で塞がれて苦しそうにしている。
仮面をつけた変な人は私の方を見てため息をついた。
「まったく。勝手に扉を開けて出てきてしまった新入生など前代未聞です!」
意味も分からず叱られてしまったみたいだ。
「はぁ…どれだけせっかちさんなんですか」
と、もう一度ため息をついた。
私もため息をつきたいくらいに困っているのだが。
「さあさあ、入学式は始まっていますよ。鏡の間へ行きましょう」
「扉とは…なんですか?」
とりあえず気になる事を一つ聞いてみた
「貴方が目覚めたたくさんの扉が並んでいた部屋ですよ。
この学園へ入学する生徒は、全てあの扉をくぐってこの学園にやってくるのです。
通常、特殊な鍵で扉を開くまで生徒は目覚めないはずなんですが……」
「あの大量の棺は扉だったんだ…」
でも確か…炎が蓋を吹き飛ばしていったような…気のせい?
「それまでの世界に別れを告げ、新しく生まれ変わる。あの扉の意匠にはそんな思いが込められているのです。」
そうだったんだ…
私は真にこの仮面の変な人の話をちゃんと聞いてしまっていた。
「…おっと!長話をしている場合ではありませんでした。早くしないと入学式が終わってしまう。さあさあ行きますよ」
ついてこいと言わんばかりに私を置いて行く素振りを見せた。
行く前に気になる事がある。
「…その前に、一体ここはどこですか?夢にしてもリアル過ぎるし…」
「夢?君、まだ意識がはっきりしてないんですか?」
「一応はっきりしているつもりなんですが…」
「きっと記憶が混乱しているのでしょう。よくある事なので気にしないでください。」
この人のこの言い方からするとどうやらここは夢ではなさそうだ。
でも、夢じゃないとでも言い難い。
「では歩きながら説明してさしあげます。私、優しいので、」
自分自身を優しいとか言っちゃうんだ…
でも思ったよりも悪い人じゃなさそうだし、素直について行った方がきっと利口だ。