第5章 愛玩する僕の心を恐ろしく思った【薄桜鬼】
直ぐに呼ばれて来てくれた松本先生に依って、もうちゃんは目を覚まさないのだと知らされる。
そう、ちゃんは眠った儘……
静かに逝って仕舞ったんだ。
狼狽えもせず唯々呆然としている僕に、松本先生は真っ直ぐに話してくれた。
「彼女の心と身体は既に限界を迎えていたのだろう。
其れを見抜けなかった私自身も悔しくて堪らない。
恐らく新選組に保護された時には……
もう永く無かったのだろうね。」
「じゃあ……僕の所為で……」
「沖田君?」
「僕の所為だ。
僕がちゃんに無理をさせたから……
僕がちゃんを殺したっ……」
どうして?
どうして僕はいつも此の手に触れた《もの》を死なせて仕舞うのだろう。
自分の手で斬った《もの》
其れだけに留まらず、愛しくて仕方無かった《もの》
此れからずっと大事に大事に愛でていこうと決めた《もの》
ああ……そんな自分が恐くて堪らない。
だったら僕が死んで仕舞えば良かったのに。
松本先生を睨み付ける様にして唇を噛む僕の凍った心を、柔らかい声が一瞬で溶かす。
「違うよ、沖田君。」
「………違う?」
「私が断言出来る事は一つだけ。
彼女は苦しまずに逝った。
無論、此の先は私の想像でしか無いが……
彼女は一番幸福な瞬間に己の鼓動を止めたのだと思う。
遺される者達への心労や手間を最小限に留めて。
だから、沖田君の腕の中で笑って逝けた。
沖田君……
君は彼女を救ってあげられたんだと思うよ。」
其の途端、僕の両眼からはぼろぼろと涙が溢れ出し
「う……わあああああっっ……」
畳に突っ伏して泣き喚く僕の背中を、松本先生の温かい手がずっと摩ってくれたんだ。