第9章 豊臣の若紫【イケメン戦国】
皆からの酌を受け続け、散々に飲み明かした俺とは覚束ない足取りで御殿へ戻った。
使用人たちが気を利かせてくれた沢山の生花で飾られた寝所に入ると、流石に酔いも覚め始める。
真新しい褥に二人向かい合って腰を下ろし、無言の儘見つめ合えば直ぐに唇が重なった。
お互いの呼吸が僅かに乱れた所で顔を放し、俺はの艶やかな頬を撫でながら言葉を紡ぐ。
「まさか……
を戦場から引き取った時にはこうなるとは思わなかったな。
純粋にお前を救って遣りたいと……
お前が幸福になってくれれば良いと……
そう思っていたんだ。
なのにお前が俺を幸福にしてくれるなんて、
世の中は分からないもんだよ、全く。」
「私は分かってたよ。」
「………は?」
「私はきっと此の人のお嫁さんになるんだって。
此の人と生涯一緒に生きて行くんだって。
だからずっと……秀吉さんだけ見てた。」
「……」
ああ、そんな可愛い事を言われちまえば………
今夜も寝かせてやれねえぞ。
白無垢姿の儘のをすとんと優しく押し倒し顔を寄せる。
「じゃあは俺の若紫だ。
俺の物にする為、手塩に掛けて育てた大事な大事な姫君だ。」
「一寸やんちゃな姫君だけど……良いの?」
悪戯っぽく微笑むがまた一段と愛らしい。
「其れが良いんじゃねえか。
信長様も言ってただろ?
野暮天で思い切りの悪い豊臣秀吉を支えるには
気丈な奥じゃねえとな。」
「秀吉さん……愛してる。」
「俺もだ。
が愛しくて仕方ねえ。」
此の先はもう言葉なんか囁いてる余裕は無かった。
自分が用意した最上の花嫁衣装が恨めしくて堪らなかった。
……脱がすのに手間が掛り過ぎてな。
とは此れ迄何度も身体を繋いでいたが、《夫婦》となって初めての夜ってのはこんなに滾るもんだったとは。
酒に酔った勢いだけじゃねえ。
何よりも名実ともに漸く俺だけの物となった《若紫》が愛おし過ぎて、俺は東の空が白む迄……
何度も何度もを啼かせ続けた。
了