第5章 愛玩する僕の心を恐ろしく思った【薄桜鬼】
其の日は夕餉も摂らず早々に床に入ったけど眠れる筈も無い。
もしかすると左之さんだけじゃなくて、平助とも為てるのかな?
左之さんはちゃんが好きなのかな?
ちゃんは左之さんが好きなのかな?
……………僕よりも?
悶々と考え込んで、気が付けばもう空は白み始めていた。
眠る事を諦めた僕は床を出て道場に向かう。
無心で木刀を振れば、少しは気分が晴れるかも。
早朝の道場には当然未だ誰も居なくて、しんと冷えた空気は心地好い。
だけどどれだけ木刀を振っても、僕の邪念は消せなかった。
「早いな、総司。」
いきなり背後から聞こえた声に肩を弾ませる。
振り向き見れば、其処に立っていたのは左之さんだった。
「左之さんこそ。
どうしたんですか?」
平静を装ってはみたものの、やはり僕の声色には棘があったんだろう。
左之さんは少し困った様な笑顔で歩み寄って来る。
「お前……
昨日の、聞いてたんだろ?」
………気付かれていたんだ。
僕が左之さんとちゃんの睦事を盗み聞きした事を。
たった今僕に気配を悟らせなかった事も、昨日僕の気配を悟っていた事も、やはり左之さんには敵わないな。
僕は何も言えず黙った儘左之さんを見据えれば、左之さんも僕をじっと見つめて口を開いた。
「御礼……だとよ。」
「……御礼?」
「ああ。
が俺に為た行為だ。」
……そっか。
僕に為た口付けと同じ意味なんだ。
「勿論、俺も最初は驚いて拒んだんだぜ。
けども頑として譲らなくてな。
まあ、の事は憎からず思ってたし
俺も誘惑に負けちまったって訳だ。
ははっ…情けねえな。」
自分を蔑む様に笑う左之さんの言葉に嘘は無い。
そして僕は何所かで安堵しながらも、そうする事でしか自分の感情を伝えられないでいるちゃんを哀れに思う。
きっとちゃんは、大事な部分が壊れて仕舞っているんだ。