第5章 愛玩する僕の心を恐ろしく思った【薄桜鬼】
翌朝、僕は用意した着替えを持って彼女を迎えに行く。
松本先生には『これ迄の事を問い質したりはしないでやってくれ』と言われたけれど、勿論そんな事をする心算は無い。
彼女の着替えを待って、僕と二人で屯所に戻ると既に彼女の部屋が用意されていた。
昨夜僕と一君はあの男が話した内容を近藤さんと土方さん、其れから左之さんと平助にも伝えたんだ。
近藤さんと平助は今にも泣き出しそうに顔を歪ませて、土方さんと左之さんは怒りに拳を震わせていた。
あの男からは既に一君が粗方証言を引き出していたし、もう用済みだ。
後は会津藩に引き渡して、斬首って結果に為るだろう。
ああ……どうせ殺して仕舞うのなら、僕が斬ってやりたかったな。
屯所に到着した彼女は大勢の男達に囲まれて怯える様子も見せていたけど、それでも近藤さんの優しい笑顔に落ち着いたみたいだ。
本当に近藤さんって頼りになるな。
昨夜からの流れで、もう僕には慣れてくれている彼女を部屋へ連れて行き向かい合う。
「僕は、沖田総司。
君の名前も教えてくれる?」
「私の……名前?」
「そう、何て呼べば良いのか分からないと困るでしょ?」
「私を、名前で呼んでくれるの?」
きらきらとした目で僕を見つめる彼女の言葉に、痛いくらい胸が締め付けられる。
此の娘は……自分が《人》として扱われていない事をちゃんと理解して仕舞っていたんだ。