第5章 愛玩する僕の心を恐ろしく思った【薄桜鬼】
眠って仕舞ったという彼女は一晩松本先生に預ける事にして、僕は急ぎ足で屯所に戻る。
土方さんへの報告もそこそこに、捕縛した例の男が監禁されている土蔵へと向かった。
無言の儘ずかずかと中へ入って来た僕を見て、男への詰問を担当している一君が僅かに目を見開く。
「どうした、総司?
あんたはこういった務めは得意では無いだろう?」
確かに。
僕はじわじわと責め苦を与えて、証言を引き出すなんて仕事は面倒臭くて大嫌いだ。
新選組に仇成す輩なんか、さっさと斬っちゃえば良いんだからさ。
でも……此の男にはどうしても聞きたい事がある。
荒縄で後ろ手に拘束され、へたり込んでいる男は何も言わない僕を不思議そうに見上げた。
一君に殴られたのかな。
其の口の端には血が滲んでいて、其れなりに痛めつけられているみたいだ。
「ねえ……あの娘は誰?」
「あの娘…とは何だ?」
男より先に一君が口を開く。
ずっと土蔵に詰めていた一君は、未だ彼女の事を知らないよね。
でも、ごめん。
今は一君に説明する時間すらが間怠い。