第5章 愛玩する僕の心を恐ろしく思った【薄桜鬼】
「なあ……土方さん。
彼女は新選組が連れ帰る…ってのはどうだ?
どうせ色々聞かなきゃならねえなら、
俺達が聞き出した内容を後に会津藩に伝えるってのでも
問題は無いだろうよ。」
流石は左之さん。
至極真っ当な意見に、土方さんの心が揺れ始めるのが分かる。
「然し……
連れ帰った所でだな……」
「僕が面倒見ますよ。」
僕は自分でも驚く程自然に、土方さんに向かって宣言していた。
「あのなぁ……総司。
犬っころや猫の仔とは訳が違うんだぞ。
そう簡単に面倒見るって言っても……」
「まあまあ……
良いじゃねえか、土方さん。
総司だけじゃなくて、俺も協力するからよ。」
「あっ……俺も!」
左之さんと平助の後押しに、暫く考え込んだ土方さんも漸く腹を括ったみたいだ。
「………分かった。
そうと決まりゃ、人目に付かねえ内に
其奴を連れ出すぞ。」
「さ……
僕達と一緒に行こう。」
出来るだけ優しい声色で語り掛けながら手を伸ばすと、彼女はびくんと身体を弾ませ一層身を縮める。
此の尋常では無い怯え方を見れば、此の娘が今までどんな扱いを受けて来たのかなんて考えるまでも無い。
「大丈夫だよ。
僕達は君に酷い事はしな……っっ!」
彼女の肩に触れようとした僕の右手は、素早い動作で繰り出された彼女の爪に思い切り引っ掻かれて仕舞った。
手の甲に僅かに滲む血を舐めながら、其れでも僕は笑顔を崩さない。
「ははっ……
君、本当に猫みたいだね。」
そう言いながら脱いだ羽織をそっと彼女の身体に掛けてあげると、強張っていた表情がふんわりと緩む。
……此れなら大丈夫かな?
僕は彼女の目前に屈み込み、首に括られた儘の荒縄をそっと解いてあげた。
「歩ける?
んー……でも少し急がなきゃいけないから。」
彼女を横抱きにして立ち上がれば、一瞬警戒心を顕にした彼女も
「確り掴まっててね。」
僕の其の言葉と笑顔に安心したのかな……
両腕を僕の首に回して、ぎゅっと身体を寄せて来たんだ。