第3章 傀儡-KAIRAI-【イケメン戦国】
振り向き見れば其処に立っていたのは。
何故此の場にを?
俺が秀吉を見遣れば、其の表情は何やら含みを湛えている。
そしては凛とした所作で俺の隣まで歩み寄り声を上げた。
「お久し振りで御座います……兄上。」
「おお……。
良う遣ってくれた。
お前が齎してくれた安土の内情は随分と俺の役に立ったぞ。」
やはりが内通者だったのか?
光秀でも見抜けなかったという事か?
僅かな動揺を見せる俺には構わず、は落ち着いた様子で言葉を続ける。
「其れはそうと……
父上は息災でしょうか?」
此の場には不釣り合い過ぎる問い掛けに、の兄は下卑た笑みを浮かべた。
「父上は耄碌された。
今は私に家督を譲り隠居されておる。」
「そうですか。
もう……生きてはおられないのですね。」
何だと?
の物言いから察するに……
此の男がの父御を手に掛けたのか?
悲しみに耐えるように僅かの間、瞼を伏せていた。
然し、次に見開いたの瞳は身震いする程の強い光を湛えていた。
「父上は……争いなど望まぬ穏やかな人でした。
私が織田に嫁いだ事をとても喜んでくれた。
此の先、安寧の世を築く信長様を確り支えよと仰った。
だから兄上から安土の情報を流せと密書が届いた時には
こうなる予感がしていたのです。
本当は父上を守りたかった。
でも……安土に居る私には何も出来なくて……」
「だが、お前は俺の言う通り情報を寄越したではないか!」
みっともなく狼狽え始めた此の男との遣り取りを俺は黙って見つめる。
「御可哀そうな兄上。
貴方は大きな間違いをされております。」
「……何だと?」
「私は織田へ嫁いだのです。
今の私がお守りする可きは我が殿……
織田信長様以外に御座いません。」