第9章 豊臣の若紫【イケメン戦国】
此所最近よりは幾分か足取りも軽く御殿に戻ったが、の出迎えは無かった。
此れ迄は毎日、弾ける様な笑顔で俺を出迎えてくれていたが姿を見せなくなったのは縁談があると告げた翌日からだろうか。
其れでも日中は変わりなく働いている様子だし、俺が気に病む事でも無いのかもしれない。
然し、今晩は信長様から聞かされた話と俺の考えをへ伝えなければ。
余り遅い時間に部屋を訪ねるのは躊躇われて、夕餉を終えて直ぐ俺はの自室へ向かう。
「……居るか?」
障子戸の外から声を掛けると
「…………どうぞ。」
暫くの間の後、返事が聞こえた。
「少し邪魔するぞ。」
そう言って部屋へ入る俺をは繕い物をする手も休めず、ちらりと一瞥するだけだ。
「お前、未だ働いてるのか?
夜はゆっくり休めといつも……」
「いいの。
私が好きで遣っているんだから。」
常日頃通りの返事だが、何故か今日は棘が有る様に聞こえるのは気の所為か?
どうしてだか気不味い空気が流れる中、俺は早々に要件を告げる事にした。
「お前の縁談についてだがな……
今日信長様に色々伺って来たんだ。」
「………そう。」
自分の縁談であるのに、まるで興味が無いという様相の。
其れでも俺はの為なのだからとの一心で捲し立てる。
信長様の言葉一言一句を違わず伝え、お前は何も憂慮せず唯々幸福に為れば良い……
織田に匹敵する大大名の奥方として何不自由無く暮らせるのだと……
だがは無表情で「うん」「うん」と頷くだけだった。