第9章 豊臣の若紫【イケメン戦国】
重い足取りで自分の御殿へ戻りながら思考を巡らせる。
《》というのは俺の御殿で預かっている娘だ。
齢は今年十八になるだろうか。
十年程前、戦で焼かれた集落で身内を全て亡くしたを俺が引き取った。
贖罪の心算では無い。
信長様が此の乱世を平穏安寧へ導く為には、どうしても必要な戦だった。
だがたった一人、煤塗れで立ち尽くしたまま泣きじゃくるをどうしても放ってはおけなかったんだ。
信長様にも『貴様の好きにするが良い』と了承を戴き俺の御殿で暮らし始めたは、元来の明朗さもあってか直ぐに其の生活に慣れてくれた。
俺の事を兄の様に慕い、今では御殿の女中頭と言っても過言では無い程に働き者の娘と為っている。
俺は何度も『女中とする為に連れて来た訳ではないのだから、そんなに働かなくても良い』と告げたが、はいつも『私が好きで遣っているのだから』と陽気に笑った。
年頃に為れば好きな男でも出来て、其の男と添い遂げれば良いと……
其の時には俺がを立派な花嫁として送り出してやろうと……
そう思っていた筈なのにな。
なのに何故……俺はの縁談を快く受け容れられないでいるのか。
信長様がへと調えた縁談なんだ。
決してが不幸に為るものでは無いと分かっている。
俺の御殿で女中の如く働き続けるより、信長様が選んだ男の元で姫様として大切に愛され生きて欲しい。
至極真っ当な感情であるのに、俺はどこかで此の縁談をには聞かせたくないと思っていたんだ。