第7章 下拵え【薄桜鬼】
「どうだ……不知火。
我が妻は美しいであろう?」
低く喉を鳴らしながら問う俺に向かって、不知火も不敵に口角を上げる。
「全く、良い趣味してやがるぜ。
漸く娶った大事な嫁じゃねえのかァ?
こんな風に虐めて楽しいのかよ?」
其れでも未だ不知火の声色には動揺が見て取れたが、どうやらから目を逸らす気は無い様だ。
「虐められる行為が《愉悦》では無いと……
何故言い切れる?」
瞬間、息を飲む不知火。
それから確信的な笑みを浮かべ、へと一歩近付いた。
「へぇー……そーゆー事か。
中々に良い嫁を手に入れたみてえだなァ。
こりゃ祝儀も弾まなきゃいけねえってヤツか?」
不知火が身を寄せた事に依り、俺以外の男の存在を一層感じたは浮かされた身を捩り出す。
其の所為で絹紐が軋んで発てるキシキシという乾いた音は随分と扇情的だ。
「で……?
何だって俺を呼び付けやがった?
まさか嫁の厭らしい姿を見せたかっただけじゃねえだろ?」
「祝儀を弾む……と言ったな、不知火。」
「ああー?
其れが何だってんだ?」
「其の祝儀……
お前の身体を使って払って貰おうか。」
「はああっ!?」
心底驚く不知火の様相が滑稽で俺は低く笑う。
そんな俺を睨み付ける不知火の目には憤怒すら沸いていたが、常日頃は破天荒で好い加減に見える不知火は意外に良識のある男なのだという事を思い出した。
「何……
お前の身体で、此の女を風間家に相応しい嫁に
躾けてやって欲しいと思ってな。」
「何で俺が!?
んなモン、天霧に任せりゃ……」
「天霧には出来ぬ方法で…だ。」
不知火の言葉を遮って告げれば、流石に其の意味を悟ったらしい。
暫くの間探る様に俺の目を見据えていた不知火は一つ小さく息を吐くと、どうやら俺の所望を受け入れる覚悟を決めた様だ。