第6章 黒い甘露【イケメン戦国】
急に激昂し声を荒げる私に流石の信玄も動揺を隠せない様で、目を瞬かせた儘静かに問うて来る。
「一体……どうして…」
「あんたは何も知らないんでしょう?
あんたの所為で大切な物を全部失った者が居るんだって。」
「がそうだと言うのか?」
「そうよ!
私は父も母も、弟も……
何よりも大切な存在を全て喪った。
私の生まれた小さな集落は、
武田と安土の織田との戦に巻き込まれて
宛ら地獄絵図の様だった。
追撃に押され、命辛々撤退する赤備えの連中が
織田勢の追っ手を振り切る為だけの理由で……
集落に火を放ったからよ。
あんた達からすれば、
其処で生きている人間なんて虫螻同然だったのよね?」
「そんな…事が………」
「武田と織田の諍いなんて、細々と……
でも細やかな幸せを噛み締めて
必死に生きてる者達にはどうだって良かった。
殺し合いたいあんた達だけで
生きるも死ぬも好き勝手遣ればいいのに……
どうして私の家族が死ななきゃいけないのっ?
どうしてあんたは生きてるのっっ?」
「……。」
「赤備えが為た愚行の責は武田信玄が負う可きよね?
武田信玄が私の家族の元へ逝って頭を下げるのが筋でしょう?
だから私があんたを……
武田信玄を殺しに来たのよっ!」