第3章 500年の時を翔ける
_____軍議の広間
どのくらいの時間が経ったのだろう。
事のあらましを話し終えた時、広間には静寂だけが居座っていた。
_____静かすぎて耳が痛い。
広間の一段高くなっている上座に信長役が座り、脇息(きょうそく)にもたれている。
私が話している間、ひたすらじっと見つめるばかりで、その真紅の瞳から何を考えているのかは見て取れない。
信長役のいる上座の下段、その正面に座らされた私の左右に、武将役の面々が並んで座っている。
秀吉役・三成役の他に、後から帰ってきた正宗役・光秀役、そして城で待機していたという家康役まで集められていた。
口火を切ったのは三成役だった。
「・・・・・・理解を深めるために確認させてください。
莉乃様は、お一人で旅行中に「映画村」と呼ばれる城下町を模した施設を見学しておられた。
突然の雷雨にあい、気が付けば火事場にいて倒れている信長様を見つけ、助けた。
それが先ほどの本能寺での出来事ですね。
そして「映画村」内で行われる「時代劇」と呼ばれる演劇の場に立ち入ってしまい、さらに・・・我々をその劇の演者だと思っている。
この解釈で合っていますか?」
私は黙って頷く。
「ばっかじゃないの」
家康役が吐き捨てるように呟いたのと同時に
「わっはっはっははっは、面白いな、お前!」
眼帯をしているから伊達正宗役と思われる俳優が思い切り笑う。
眉間に皺を寄せる秀吉役と、信長役に負けず劣らず表情が読めない光秀役。
その時だった。
信長役が、手で弄(もてあそ)んでいた扇をパシッっと締め
「立て、莉乃」
広間の空気を凍りつかせるその低い一声に、私はしぶしぶ立ち上がる。
「余興は終わりだ。
貴様がそのような奇怪ななりをし、本能寺にいたのか。
なぜ俺を助け出したのか、本当のことを話せ」
火事のせいでところどころが焦げ、煤がついて黒くなった半袖のニットに膝丈のスカート。
その場にいる全員が射るように私を見つめている。
心細さと不安が入り乱れる気持ちをこらえるのも、もう限界だった。