第2章 安土へ。
これは夢?幻??
豊臣秀吉役の俳優に追われ、捕まり、今こうして馬に乗せられている。
____訳も分からず逃げ出したあの場。
旅行用にと買った可愛らしいサンダルでは、全力で駆けてくる馬に敵(かな)う訳もなく・・・
あっという間に追いつかれてしまい、
母に勧められて「痴漢対策用」にと習った護身術は、武将役の前でなす術もなく捕らえられてしまった。
秀吉役のこの俳優さんはきっとスタントマンもこなすんだろうな、と馬上で考える。
どんどん流れてゆく見たことのない景色、髪を撫でる風、
・・・そして馬に揺られて痛みを増すお尻。
夢、、、?
じゃない!!!!
「あのーー!!
さっきから何度も申し上げてますけど、
東京に戻らなきゃいけないんです!!!
新幹線に間に合わなくなるので、いい加減、冗談やめてください!!」
私の背後から腕を回してたずなを握り、どこかへと馬を飛ばす豊臣秀吉役は、莉乃に氷のように冷たい一瞥をくれると、
「信長様のご命令は絶対だ。
城に着くまで、おとなしく座ってろ」
幾度となくこのやりとりがされる。
初めて乗った馬に体が悲鳴を上げ始めた頃、目的地とされる「安土城」に着いたのだった。
(わぁ~、
ずいぶんリアルなお城と街のセット・・・
ここもさっきの寺と同じ、映画村のひとつなのかな。)
城門にて待っていたのは、本能寺にもいた紫の目の美青年。
そういえば、「三成」と呼ばれていたっけ。
(ん?
信長様、って織田信長??
ということは、目の前にいるのは石田三成の役の人?
やっぱり時代劇の撮影だったのかな。)
「おかえりなさいませ、秀吉様。
お待ちしておりました、莉乃様。
お名前は信長様よりうかがっております。
政宗様、光秀様もじきにお戻りになられますので、軍議の広間にお越し下さい」
三成役は天使のような笑顔でそう言うと、手を差し伸べて馬から降りるように促してくる。
「あっ!」
地上に足をつけた瞬間、膝がガクガクと震え力が入らない。
思わずしゃがみこんでしまう。
「おい、どうした!?」
「莉乃様!!いかがなされましたか?」
秀吉役と三成役が心配そうに私の顔を覗く。