第7章 三日月の夜に。明けた朝に。
翌朝。
「おはようございます、莉乃様。
これは一体…」
起こしに来てくれた吉野さんが、置き手紙を見つけて不思議そうにしていた。
「あ、、、」
私の腫れた目と手紙を交互に見た吉野さんは
何かを感じたようだけれど、それはそっと飲み込んでくれた。
「莉乃様、実は今日もお着物が届いてるんですよ。」
またうふふと笑っている。
「・・・
信長様ですか・・・?」
「いえ、今日は豊臣様と伊達様からです。
莉乃様は皆様から慕われておられるんですね」
掛けられた小袖は、桃色の大柄な花が刺繍された艶やかなものだった。
「このように着物を送られては、そのうちお部屋が着物でいっぱいになってしまいそうです」
まるでそれを望んでいるかのように、吉野さんは嬉しそうだ。
着付けをしてもらい、髪と化粧を整えてもらう。
まだ2日しか経っていないのに、それは日課のように馴染みつつあった。
思いのほか、着物を着ることに抵抗がないのかもしれない。
むしろ、刺繍や織られた生地の美しさに元気をもらえている気がする。
丁寧に作られた着物に宿る職人の意思。
社長が言っていたのはこういうことなのかもしれないな。
それは自分の新しい気づきだった。
「おい、飲みすぎのバカ娘。支度は済んだか?」
障子の向こうから光秀さんの声がした。
今日もいつもと同じように一日が始まる。
でも。昨日と同じだけど同じじゃない。
新しい 小さな1歩を踏み出す1日が。