第1章 永遠の始まり(信長side)
秀吉の剣幕に驚きつつも、処置する手を止めなかった莉乃。
普通の女なら、慌てふためき怯えるだろうに。
なかなかに気骨のある女のようだ。
傷を介抱する手際の良さを目にした家臣達が驚きの視線を投げ、感嘆の声が上がる。
苦虫を潰したような表情をしていた秀吉ですら、片眉をあげてその様を見ていたほどに。
「・・・信長様がそうおっしゃるのなら、、、
今は信長様のお怪我の方が一大事、しっかりとお世話せよ、女」
渋々ながらも刀の柄から手を離した秀吉。
そんな秀吉の失礼な言葉を無視した莉乃は一度息を深く吸い込むと、俺をまっすぐに見つめた。
「いくら撮影だからって・・・危なかったですよ、あなた。
それに現場の危機管理がなっていません!
組合にきちんとしてもらわないと。
あ、あと、、、
救急車が来るまでいられずごめんなさい。
出血が止まって良かったです。
東京に戻る新幹線の時間があるので、これで失礼します。
ちゃんとお医者さんに診てもらって下さいね。
駅行きのバス、あっちかな・・・」
俺にそう告げると、この場から立ち去ろうとする。
「待て!」 「お待ちください!」
俺と三成が同時に発し、秀吉が再度、刀の柄に手をかける。
「やはり怪しい奴!! この者を捕えろ!」
秀吉の発声で、家臣数名が莉乃を捕まえようと一斉に向かった
その瞬間、
「ちょっっと!!!急に何するの!!」
莉乃は肩に掴みかかろうとした家臣の鼻に向かって手のひらを突き上げ、ひるんだところに脛(すね)を蹴る。
さらに膝を上げたかと思うと、かかとに高さのある草履を、家臣の足の甲に思い切り着地させた。
流れるように優雅なその動作は、まるで舞を見ているようだ。
「うぐっ」「がっっ」という情けない声とともに膝をつく家臣。
女とは思えないほどの速さで駆け出す莉乃
___その場にいた全員が一斉に固まる。
「見たか、今の!?」 「一撃だったな」
「女だてらに武術の心得があったとは・・・」
「あ、あいつほんとに女か?」
「護身術の使い手でしたか・・・」