第6章 夜伽
「莉乃、
体調が戻ったら信長様にお礼しに行きな。 謝罪、かな」
「え?」
「あんた、あの場で斬られててもおかしくない状況だったのに、
信長様は倒れたあんたを抱えて離そうとしなかった。
あんな信長様、初めて見たよ。
『介抱はこやつらに任せて天主で飲み直しましょう』って光秀さんが気をきかせて連れて行ったけど…
そういえば、光秀さんが「飲みすぎだ、バカ娘」だって。
起きたら言っとけ、って言われた。
あんたがどういうつもりで城にとどまる事を選んだのかわからないけどさ、
どういう目的があるにしろ、ちゃんと信長様にはご理解いただいたほうがいい。」
(俺から言えるのはここまでだ。)
「分かりました。 色々・・・ありがとう家康さん」
「政宗さんのことも呼び捨てなんだから、
俺のことも『家康』でいい。
分かった?」
「う、うん、」
「じゃ、今夜は安静にして眠りなよ」
そう言って冷たい表情を作り、部屋を後にした。
「今夜は三日月だったか」
静まりきった廊下を歩きながら、一人、暖かい月夜を感じる。
…静かな呼吸を繰り返す莉乃の滑らかな頬に触れたいと思った事も、
「介抱のため」と打掛を脱がし、小袖の帯を緩めた時の気持ちの昂ぶりも、
きっと酒に酔っていたからだ。
酒が抜けたら、また戻る。
この感情は、いらない。