第6章 夜伽
「家康さんがここまで運んでくれたんですか?」
「いや、運んだのは秀吉さん。
あんたの体がぐらついた時、信長様がすぐに気づいて受け止めてくださって。
秀吉さんが飛んできて、あんたを部屋まで運ぶって。
政宗さんは、あんたに食べさせるって粥を作りに行ってる。
…三成は『莉乃様、莉乃様っっ』って揺するから…
自室に返した。
(秀吉さんに『やめろ!』て叱られて首根っこ掴まれてた所までは教えなくていいか)
俺は薬を調合して、飲ませただけ。」
「家康さんが薬の調合を? お医者様なんですか?」
「薬の調合は趣味みたいなもの。戦場で必要になるし。
薬草の研究をしてるうちに病にも詳しくなったから、
城では有事の時に医者として診ることもある。
今みたいに。」
「そうでしたか、ありがとうございます」
そう言う莉乃は心ここにあらず、といった風だった。
沈黙が流れるけれど、不思議と気にならない。
言葉で時を埋める必要は、俺とこの子の間にはない。
500年後から来たと聞いた時はなんて馬鹿な与太話をと思ったけど、あの必死な目と、それ以上に…
居場所のない不安の目が、本心を物語ってた。
___俺は幼い頃から長いこと人質としての生活を送ってきたから…
自分の存在が場違いだって気持ちは、否応無しに分かってしまう。
この子の気持ちなんて俺には関係ないはずなのに。
三成の馬鹿は『腹黒さなんて一切ありません』という顔で莉乃を褒めちぎるし、
秀吉さんは目尻を下げっぱなしで世話を焼こうとしてる。
政宗さんは…あの人はいつも本能のままに動いてるけど、莉乃への執着は強い。
光秀さんの考えてる事はいつも読めないけれど、あの子の目をよく見てる、気がする。