第6章 夜伽
(家康Side)
身じろぎする衣擦れの音がして、そちらを見やる。
重そうなまぶたを開け、莉乃は「ここはどこ?」という顔をしていた。
その無防備な呆けた顔に、思わず安堵の笑みがこぼれそうになり頬を引き締める。
「…目、覚めた?」
「は、はい。 ・・・・・ここは?」
「あんたの部屋。 女中は下げたよ。」
そう言って額に載せていたぬるい手ぬぐいを取り、
冷たいものに代えてやる。
「あの・・・どうして?」
訳がわからない、という顔も仕方ない。
教えてやる、か・・・
「あんた…信長様にさんざん吠えた後、倒れたんだよ。
言うだけ言って… ばかじゃないの?
空きっ腹であんなに飲むから。
女であんなに飲むの、初めて見た。」
(自分は一滴も飲めないくせに、莉乃に酌し続ける政宗さんには腹黒いものを感じたけど)
____あの時、俺たちは莉乃が信長様に対峙する様を見守るしかなかった。
正直……気が気じゃなかった。
いくら後の世から来たとは言え、あんな無礼を信長様がお許しになる訳が無い。
投獄、いやその場で斬られてもおかしくなかったのだから。
莉乃が暮らす時代には、主も従者もいないらしい。
それは驚きだった。
余程、平和な世の中なんだろう。
今の乱世からは想像もできないけれど。
莉乃が
「命令されて体を捧げるのではなく、私のことを愛し、慈しんでくださる方と床を共にします。」
と力強く言った時の信長様の表情は、初めて見るものだった。
魔王と恐れられるあの方から漏れたのは、
戯れの夜伽ではない莉乃への熱情だったから。
女でも…こんなに強い言葉を、自分の言葉として発せられるんだ、後世では。
認めたくはないけど、少し、羨ましい。_______