第6章 夜伽
「信長様、一つお聞きしたいことがあります」
「なんだ?」
「信長様はなぜ天下統一を目指しておられるのですか?」
「は?」
「天下布武を成し遂げて、領土を広げたいだけですか??
ご自身の満足のために。」
必死で頭の中の日本史の教科書をめくる。
たしか、たしか、信長様の戦う理由は・・・・・・
『気でも触れたか』と言いたげな武将たちの視線が痛い。
お願いだから、答えて。私のシナリオに乗って。
「良いだろう、答えてやる。
俺が天下を統一した暁には、身分制度を取り払い、民を解放する。
各々(おのおの)が各々の思考で、自由に生きられるように、だ。
くだらん領地争いで兵に戦わせるのではなく、国を豊かにし栄えさせために。」
信長様の言葉が教科書の説明と合致していく。
きっと、この方には小手先の演技など通用しない。
先程まで吹き荒れていた私の中の嵐は、静かな、
だけれども熱を持つ風に変わっていた。
今日、何度目だろう。
深く息を吸い、背筋を伸ばす。
信長様と私しかいないかのように、ただ、まっすぐに。
「夜伽はお断わりします。」
「なに?」
信長様の片眉が上がる。
「私は…
身分制度のない、私の思考で生きられる世から来ました。
人々は女も男もなく、上も下もなく、共に国を支える同志、です。
つまり、私の主(あるじ)は『私』です。
命令されて体を捧げるのではなく、私のことを愛し、慈しんでくださる方と床を共にします。
私が私の意思で。
私が褥を温めてあげたいと思った方と、です。
それが、信長様がなされようとしている天下布武の…
その先の『世の理』です。」
秀吉さんが言っていた「手打ち」という言葉が浮かんだ。
ちらりと武将たちを見やると、
「お前、何てことを・・・」という顔をしている。
光秀さんだけが、酒を飲むふりをして口元を隠し・・・
声を出さず笑っていた。
乱世の世に迷い込んだ私が戦うには、これしかない。
私の価値を、私が手放すわけにいかないのだから。