第6章 夜伽
(莉乃 Side)
不思議なことに、、、
夜伽を命じられて思い出したのはOLをしていた頃のオフィスだった。
______「おい、水崎!これ、今日までに仕上げとけって言ったろ?」
「それは明後日まででは?
こちらの指示書にはそのように・・・」
「は? 言われたことちゃんとやっとけよ。
女だから回してもらえんだろ?こんな簡単な仕事。
あーあ、女はいいよなー」
______「ちょっと~怒らないでよ、水崎ちゃん。
お尻に手が当たっただけじゃないか。
まぁ、女として興味持ってもらえてるうちが花なんだからね。
もうちょっとしたら「触ってください」って言っても誰もさわってくれなくなるんだからさっ」
やりたいことがあって入社した会社ではなかった。
食べていくためだった。
毎日代わり映えのしない生活の繰り返し。
何のために生きてるんだろう、、、
電車の窓に映る冴えない顔の自分に問いかける日々。
流れていく景色はいつも同じで。
そんな私に情熱を思い出させてくれたのは、服飾デザイナー募集の求人広告。
書き溜めていたスケッチブックを携え、面接に臨んだ日、、
合格の通知を受け取った夜。
トップデザイナーである女社長からもらった言葉が蘇ってきた。
「莉乃さん、
デザイナーっていうのは、服が主役と思いがちでしょ?
でもね、服はあくまでも脇役。
私たちは世の中の女性の強さを、美しさを引き出すただのお手伝い、なのよ。
着た主人公が輝いて、初めて仕事として成立するの。
そのためには先ず、私たちが強く、美しくいなきゃね!
デザイナー自身の意思が、服に宿るのよ。
さぁ、一緒に女性みーんなを輝かせにいきましょ!」
取るに足らない、ただの歩駒のような扱いから卒業した、
新しい世界が開けた瞬間だった。
_____今、目の前にいる 織田信長 という男。
「女が主に差し出せるのは、己自身だけ」 と言った。
一瞬でも、「酔わせてしおらしくしたら騙せるかも」と思った自分が憎たらしい。
お酒のせいもあるのか、体の中を熱い嵐が吹き荒れているようだった。
罵倒したいのか、泣き喚きたいのか、逃げたいのか、分からない。
ただ、本能的に口をついて出たのは「質問」だった。