第6章 夜伽
(信長Side)
「よ、とぎ? 何でしょうか?」
「俺の褥を暖めろ、と言っている」
「俺の しとね??」
「貴様、俺を愚弄(ぐろう)してるのか」
はっと息を飲んだ武将たちの目が痛々しい。
光秀だけが興味深そうに片方の口の端を上げた。
面白い。
莉乃が俺に抱かれるのは気に入らぬか。
500年後から来た美女の前では、一国の将たちもただの男よの。
「信長様、莉乃様には私からご説明を。
『褥』とは布団の事でございます。
つまり、信長様の布団を温めるということ。
すなわち夜伽とは…
信長様と床を共にする、ということでございます。
・・・ご理解いただけたでしょうか?」
三成の説明が腹に落ちたか。
途端、莉乃の目に怒りの炎が燃え上がる。
ほう、貴様そのような顔もするのか。
…なんとも愛らしい。
今まで誰ひとりとして、俺にそのような顔を向ける者はいなかった。
今しがたのしおらしさは偽りだったと確信する。
沸き立つ心を抑えながら、莉乃の怒りをたたえた表情を堪能した。
「の、信長様、、、
恐れながら、お戯れが過ぎるかと」
秀吉が助け舟を出す。
貴様も莉乃の愛らしさにやられた口か。
「では本気なら良いのか?秀吉」
____今まで、数え切れないほど女と交わってきた。
俺が夜伽(よとぎ)を命じずとも、自ら身を差し出す女、
出世のためにと娘や妻を差し出す者もいた。
しかし、女が本当に欲しているのは俺自身ではない。
俺が持つ権力だ。
俺が欲していたのも、女その個人ではない。
手っ取り早く欲を放出できれば誰でも良かった。
女と交わり、褥(しとね)が温まったと感じたことなど、一度もない。
無論、身の内も、だ。
しかし、今はお前が欲しいと思う気持ちが荒れ狂っている。
「こやつは俺に仕えると先ほど自分から申したではないか。
従者が主に従うのは世の理(ことわり)。
地位も権力も持たぬ女が主に差し出せるのは、己自身だけではないのか?」
「の、信長様それはそうですが・・・・」
武将たちはそれを聞いて黙っている。
俺が聞きたいのは秀吉の声ではない。
怒りをまとう、莉乃のだ。