第5章 夏の夜の蝶々
「政宗さん…ありがと。元気出た」
潤んだ涙はすぐに引っ込めた。
笑って生きたいから。
幸せを、選び取りたいから。
強い私で、いたいから。
「おう。
俺のことは『政宗』でいい。
あとな、お前…そんな顔で見んな。取って食っちまうぞ」
「何?」と言いかけたところで、
「信長様がお見えになりました。」
小姓さんが襖を開ける。
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信長様は上座に向かい、腰を下ろしてすぐ私と目が合った。
気のせいかな、一瞬、眉間に力が入ったような気がする。
宴始まりの号令がかかった後は、もうてんやわんやだった。
「んん~~美味しいっっ!!」
政宗が腕によりをかけて作ってくれたというご馳走はどれもこれも美味しくて。
心の底から、笑みがこぼれてくる。
歓迎してくれる気持ちが何よりも嬉しかった。
そうだろう そうだろう、と満足気な政宗。
「莉乃様、
こちらに参ってから初めて笑顔をお見せ下さいましたね。
お美しすぎて、目が離せなくなりそうです」
「三成、お前酔ってるなら部屋帰れよ。
サラっと浮ついた台詞吐かれるの、気味悪いんだけど」
「家康様、お気遣いいただきありがとうございます。
まだお酒をいただいておりませんので大丈夫ですよ。
家康様は本当にお優しい方で」
「は? 全然まったく、ひとつも気遣いしてないから。」
「家康ー、喧嘩しない。
今日は莉乃のための宴なんだぞ」
日本全国から銘酒が献上されるとあって、出されたお酒も喉をするすると落ちてゆく。
「自分でできますので・・・」
いくら断りを入れても、
「莉乃、食ってるか?ほら、いっぱい食え。」
と秀吉さん、政宗から箸が飛んでくる。
「ささっ莉乃様、お代わりをおつぎしますね。」
「やめろ、三成は何もするな」
秀吉さんがたしなめた瞬間、こぼす始末。
「今日の主役はあんたなんだから、大人しく甘やかされてればいいんじゃないの?
ほら、これも食べなよ。」
家康さんまで……
この調子で時が過ぎていった。