第5章 夏の夜の蝶々
(※莉乃 Side)
光秀さんに手を引かれて広間に入ると、信長様を除く全員が既に集まっていた。
家康さん、三成くん、政宗さんの視線がこそばゆい。
「莉乃様~!!
大変お美しゅうございます!!
安土の、いや、日ノ本どこを探しても莉乃様ほどの麗しい姫君はいらっしゃらないかと!」
「み、三成くん、それは褒めすぎだよ」
「おっ、莉乃来たか!?
ってなんだお前!!! 別人じゃねーか!
その着物どうしたんだ? え、信長様が?そうか。
まぁ、俺が興味あるのは着物の中身の方だけどな」
「はぁ…
政宗さんにはさっさと酒飲ませて潰しちゃいましょうよ。
莉乃、ここ座んなよ」
隣をポフポフと叩く。
それぞれが言いたい放題だ。
秀吉さんだけが何も話してくれないのが気になるけれど。
広間を見渡すと、座卓には豪華なご馳走が所狭しと並べられていた。
そういえばここ2日、まともに食事をした記憶がない。
ご馳走を目の前にして、自分が空腹だったことに気づく。
「わぁ、すごいご馳走!」
「な、うまいもの食わしてやるって言ったろ?」
政宗さんがしたり顔で隣に立つ。
「どこにいようと、いつの時代だろうと、食うってことは生きるってことだ。
お前は不本意かもしれんが、どんなに悩んでも悔やんでも恨んでも今ここにいる事実は変わんねぇ。
過ぎてく時間もな。
それなら、美味いメシ食って、笑って、生きたほうがいいんじゃねーの?
幸せな時間を過ごすのも、めそめそして不幸な時間にしちまうのも、自分で選べんだよ」
言葉が染み渡る。
途端、目が膜を張ったように潤んでいく。
____私は日本史が得意ではないけれど、今ここに集う武将たちがどんな運命を歩んだのか、なんとなく…知っている。
どんなものを背負って戦ったのか、教科書の中で読んだ。
カラカラと笑う政宗さんを見ていると、引き受けた自分の人生ルートになんて意を介さず、思うまま進んでいるように見える。
ここにいる武将たちは自分のだけじゃない、
何百、何千の家臣や自分の国の民の命も、引き受けてるんだ、
私と違って・・・
その上で、今を笑って生きてるんだ。