第4章 叶わない願い
「なぁ、莉乃・・・
俺はまだお前の出生が信用できるか否か、結論を出せていない。
だが・・・昨日のお前の言動を見て、先の世から持ち込んだという品々を見て・・・
本当の事なんじゃないかって、思い始めてる。
天下の信長様に物怖じせずに意見したやつなんて初めてだしな。
何よりも、信長様がお前を強くご所望された。
人を見る目に人一倍長けていらっしゃる信長様が、だ。
女に着物を用意させるなんて・・・初めてなんだぞ?
お前のいた時代はどうだか知らないが、この乱世では主(あるじ)の意見が絶対的に優先される。
この安土の主は信長様だ。
信長様が行かせないというならば、それは決定事項なんだ。
主に反するということは手打ちになる、という事。
昨日会ったばかりだが、お前が投獄されるのは・・・見たくない。
元いた世に帰りたいというお前の気持ちは分かるが・・・
馬を出すことは叶えてやれない。
・・・・・・ごめんな。」
諭すようにゆっくり、だがきっぱりと言い切る秀吉さんの言葉に、周りで静かに聞いていた武将たちも頷く。
昨日、あんな剣幕で私から信長様を遠ざけようとしたくせに。
私のこと、まだ疑ってるくせに・・・
秀吉さんの目は、
ううん、秀吉さんだけじゃない。
三成くんも、家康さんも、ふざけてばかりの政宗さんも・・・
悲しいような、慈しむような、そんな戸惑いの目をしていた。
秀吉さんの言葉を聞き終わった光秀さんだけがそっと広間から出て行ってしまったけれど、なぜか気にならなかった。