第4章 叶わない願い
(きちんと言わなければ。私は鳴かないホトトギスじゃない)
私はすっと立ち上がり、一歩前に出る。
そして一度息を深く吸い込むと、背をのばし上座をまっすぐに見つめた。
それは怖くて不安で仕方のない自分を、奮い立たせるための儀式のようなものだった。
私の意思の「気」が放たれたのが武将たちにも伝わったのだろう。
ギャーギャーと言い合っていた声がぴたりと止まり、視線が集まる。
鈍感な訳がない。
どんなにふざけ合っていても、ここにいるのはそれぞれが軍を持つ、歴史的な戦を繰り広げた将たちなのだから。
「信長様、
まず、このような素敵な着物をご用意頂きありがとうございます。
ですが・・・この城に住むことも、お仕えすることもできません。」
私がはっきりとした声で告げる。
「私はこの時代の人間ではありません。
何かの不思議な力が働き、こちらに来てしまいましたが・・・
元いた世界に帰りたいんです。帰らなければならないんです。」
痛いくらいの強い視線を返してくる信長の目は、同じように強い決意を持った莉乃の顔を映していた。
「…貴様は良い目をする」
聞こえるか聞こえないか分からないほどの声で信長は呟いた後、コホンと咳払いして、
「その方法を貴様は知っておるのか?」
「いえ、、、今はまだ。 ですが、必ず見つけます。
そのために、本能寺に戻ってみようと思うのです。
何か手がかりがあるかもしれません」
「そうか・・・ だが、行かせぬ。」
「え!?なぜ!?」
「話は終わりだ。 各自、職務に勤しめ」
そう言うと、漆黒の羽織を翻(ひるがえ)し広間から出て行ってしまった。
へなへなとその場に座り込んでしまう。
信長様の圧倒的な威圧感に、恐怖を超えた何かを感じてしまったからだ。
「だっ、大丈夫ですか莉乃様?!」
心配そうに三成くんが駆け寄ってきたと同時に、家康さんが手首を取る。
「うん、脈は早いけど心配ないんじゃない」
言い方は冷たいけれど、心配してくれる目は暖かい。
「秀吉さん、あ、あの・・・お願いがあります。
また馬に乗せてもらえませんか?? 私、、、行かなきゃ」
莉乃の願いを聞いた秀吉は他の武将と目を合わせてからこう言った。