第3章 500年の時を翔ける
「信長様、莉乃を連れて参りました」
障子の向こうに声をかけて開け放ったその時、
先に到着していた武将たちが一斉にこちらを見る。
「え・・・? 誰?」
そう言ったのは家康さん。
その声にかぶせるように、政宗さんがピューっと口笛を吹く。
上から下へと舐めるように見ながら。
「ほう、『馬子にも衣装』とはこの事だな。」
意地悪そうな笑顔で言う光秀さん。
「莉乃様っ!とてもお綺麗です!見惚れてしまいました!」
天使のスマイルで褒めてくれる三成さん。
うんうんと同意したようにうなずく秀吉さん。
「あ、三成さんありがとう」
直球の褒め言葉に照れながらもちらりと上座に目をやると、
静かな熱をたたえた瞳がこちらを見つめていた。
「全員揃ったな、座れ、莉乃。
光秀、報告を」
「はい。
莉乃が持参した品を港の南蛮商人や宣教師たちに見せて回りましたが、分かる者は誰一人おりませんでした。
また、昨日の三成の聞き取りから、莉乃は乗馬の経験が無いとのこと。
普段から籠を使う余程の高貴な武家に生まれ育った者かと思い、失踪した姫の情報がないかと当たらせましたが、それも無し。
公家の姫君であるならば、武術を嗜む訳がありません。
褒めたくはないが・・・
これだけの器量良しなら、すでに天下人の信長様の正室にとの話が来ていてもおかしくはないはず。
美貌の姫の情報を政宗が知らぬ、というのも腑に落ちません」
そう言って報告を終える光秀さんをジト目でにらむ政宗さん。
「分かった。
貴様が持参した「手帳」や「すまあとふぉん」。
南蛮舶来品に国で一番詳しい光秀をもってしても、知りえない品々。
三成に文献を調べさせたが、このような素材や鋳物は見たことも聞いたこともない。
・・・どうやら貴様は先の世から遣わされた、と考えるしかないようだ。
火事場から俺を救い出した功績の褒美として命を下す。
今後はこの城に住まい、俺に仕えよ」
信長様の申し出に言葉が出ない。