第3章 500年の時を翔ける
「莉乃、部屋を用意させる。
今宵は休め。 明朝、また軍議に呼ぶ。」
そう信長役が告げると、襖の向こうに控えていた小姓らしき人がやってきて、「参りましょう」と促され部屋を出た。
長く続く廊下、どこをどう歩いたか分からない。
すでに暗くなり、行灯の光がぼんやりと廊下を照らす。
案内された部屋には布団が敷いてあった。
私は倒れこむように布団にもぐり、ようやく、泣いた。
_________________
莉乃がいなくなった広間。
本能寺での出来事に立ち会っていない 政宗・光秀・家康へ向けて、三成が状況を説明する。
「…そうだったんだ。
それにしても怪しすぎる、あの莉乃って子」
家康が言えば
「童(わっぱ)の物の怪(もののけ)かと思ったぞ」
光秀も同調する。
またしばらく誰も口を聞けなかった。
目の前にある見たことのない品々だけが、幻ではないことを告げてくる。
「貴様ら、どう見る?」
信長が武将たちに問いかけた。
「どこの誰だかしらねーが、抱き心地はよかったぞ、あの莉乃って女は」
「おい!今はふざけてる時じゃないぞ!」
秀吉がキリっと政宗をたしなめる。
手帳を調べていた三成が静かに話しだした。
「みなさま、こちらをご覧下さい。
2020年と記されているのは西洋で使われているという「暦」ではないでしょうか。
ここに 「京都旅行 映画村」 と記されてもいますから、先ほどの莉乃様が話されたご説明にも合う筋かと。
・・・・確か今は1582年と南蛮商人から聞いております。」
また訪れる沈黙。
その場にいた全員が、受け入れがたい真実から逃げられないのを感じ始めていた。
頷きながら光秀が答える。
「そんなに先の世から…
もしもそれが本当なら、出処の道理が通る。
どんなに腕の良い職人でも、このようなからくりじかけの筆を作ることはできんだろう」
(今の世はまだ)と付け加えそうになり、止めた。
すでにバラバラに解体されてしまったボールペンを手のひらに乗せ、しげしげと眺めながら家康も頷く。