第13章 ★星の下★
「星が好きなのか?」
「んー……好き、なのでしょうね。気が付いたら眺めたくなるんです」
悩み、の部分はあえて言わなかった。内容をこの人に喋るわけにはいかない。
「地下街からじゃ見えないからな」
何か返事をしようと思ったのだが、何もいいのが浮かばなかった。そうですね、も違う。確かに、も違う。ああ、そうだ。
「鳥に、憧れていました」
「鳥?」
「空を自由に飛べる鳥。壁の上も、巨人の手が届かない上空も、私たちが知らない景色がみんな見えちゃう。何にも縛られず、食事の為以外殺さなくてもいい。だから立体機動で始めて空を飛んだ時はすごく世界が輝いて見えました。でも、飛んで分かっちゃったんです。鳥も生きる為に飛ぶしか無かったんだな、て。でも、空の下を自由に飛んでる事に変わりは無くて……すいません。なんか、自分でも何言ってるか分からなくなってきました……」
空に伸ばしていた手を下す。顔は満天の星から逸らせない。
「お前の正直な気持ちを始めて聞いた気がするな」
「……そうですね。星を見ていると、気持ちが落ち着くんです。この星をもっと間近で見られたらどんな気持ちなんだろう? って」
「始めて会った時のお前が楽しそうに見えたのはそのせいか」
「あー……立体機動してる時は本当に楽しいですね。でも、ガスを無駄に使ってしまって、すぐ燃料切れになっちゃってイマイチなんですよ」
「お前は対巨人では無く対人の動きだからだ」
ああ、なるほど。直線距離を滑空して飛べば少ない力で移動できるけど、無意識に加減速をして咄嗟に動けるようにしているからガスを無駄に使ってしまう。
完全に対人を想定していた。知性の無い巨人相手には背後を取ったら通りすがりに斬ってしまえばいい。それこそ、アンカーが引っ張られるよりも早く。まあ引っ張られたら速攻でワイヤーを巻き取って手を削いでしまえばいいんだけど。
癖って恐ろしい。臨機応変な立ち回りが大事なのだから、もっと練習しないといけないな。
そんな時、気配に気付いて屋上への出入り口を見る。咄嗟にナイフを握ろうとしたが、病衣になっていたのを忘れていて手は何も掴めなかった。