第9章 演習
リヴァイ兵士長の後を追う。
辿り着いたのは調査兵団団長の団長室だった。既視感。その扉をノックせずに入っていくので、私も後に続いた。入らずにおこうかと思ったが、腕を引っ張られたのだ。痛い。
「よく来てくれた。気になっているだろうから伝えておくが、君の護衛対象は無事に戦線を帰還したそうだ」
「アリア! た、助けてくれ!」
「誰?」
「トラウテの部下だ! お前を監視するよう言われていた!」
心がどんどん冷めていくのを感じる。こいつか。ぺらぺら喋ったのは。挙句の果てに私へ命乞い?
「そうですか。ありがとうございました」
裏切者には死を。情報が漏れた場合、即座に殺す事。それも、私の仕事だ。
笑顔のまま近づき、抱きしめたままタオルを取り出し彼の汗を拭ってやる。口づけで彼の口を塞ぎ、タオルを心臓に当てタオルの上からナイフを突き立てた。断末魔の息と声が私の口の中へ入ってくる。こうして命を奪うのは、もう何回目だったか。覚えていない。
新しいタオルをまた仕込んでおかないといけないな。タオルをしておかないと返り血を浴びてしまう。
口はあとで奇麗にしよう。
これは、仕事。私がやるべき仕事。仕事だから壊した。
血が固まるまでナイフは抜けないので、誰かも知らない人物の体を寝かせる。寸前まで生きていた体はまだ生暖かい。でも、私の命がかかっているし、何よりクリスタに何かが起こっては遅い。
誰かを守る為に誰かの命を奪わなくてはならない。世界は上手くできている。
そんな時、私の体が宙に浮いた。そのまま、執務室の椅子の膝の上に座らされた。
「……見たかったのでしょう? 私が人を殺める瞬間を」
だから、連れてきたのだ。
なのに、エルヴィン団長の腕の中に囚われて、また頭を撫でられている。この状況に頭が付いていかない。昨日から本当に意味の分からない日々が続いていた。もう天変地異が起こったとしても何も驚かないだろう。心が動きすぎて疲れてきた。