第1章 104期訓練兵団
私は笑顔で手を振り、その場を後にした。
「よぉ、雌犬。相変わらず処女か?」
「セクハラ。その言い方は辞めてほしいケニー」
気配もなく後ろに立った上司。ケニー・アッカーマン。いつも雌犬呼ばわりしてくる。
「お姫様のご機嫌はどうだ?」
「さあ? 別に、どうでもいい。私はただ役目に従うだけ」
「王家の血筋を絶やすとめんどくせぇからな。必ず守れよ」
「言われなくても。ところで、一人殺したい奴がいる。既に知っているだろうけど」
「駄目だ。折角だ、処女ぐらいあげちまえよ」
ダメか。まぁ、分かってたけど。気配が消えたのを確認し、自室へと向かった。明日は解散式だ。運がいいことに、役目の護衛対象と同室だったのは運がよかった。そういえば、ケニーとミカサは血筋が同じなのだろうか? まあ、いいか。深追いすると、命がいくつあっても足りなさそうだ。
私は、孤児だ。地下街に捨てられていた時に、ケニーに拾われた。そして、生きるすべとして、様々なことを教わった。が、“処女”って結局何なんだろう? 何度聞いても教えてくれなかったし、私の名前や親、兄弟子の事等も教えてもらえない。調査兵団に居る、とは言ってたか。
女であるのが有効だったのか、上司と部下という立場になった。今、訓練兵団に入っているのも、ケニーから与えられた役目を全うするため。
王家の血筋であるヒストリアが死なないように見守る事。
それが、今の私が生きる意味。役目。
「お帰り! 今日は遅かったね」
クリスタ・レンズ。ヒストリアの偽名。私の役目。
「ちょっと、告白されてて遅くなっちゃった」
「え!?」
「おいおい、どういうことだよそりゃあ! 詳しく聞かせろよ」
ユミルはクリスタの事が大好きになった奴。何か手を出しそうで、警戒している相手だ。ユミル、クリスタ、私の三人で一部屋使っている。