第9章 【美しいもの】FGO/マーリン夢
ぽすっと私の胸へと倒れ込んできた沙織は、すやすやと眠っていた。彼女の目元にそっと指を滑らせる。
「まったく、こーんなに真っ黒なクマをつけて・・・マスターは人間なんだから。」
そっと、沙織を横抱きにして、マイルームへとゆっくり歩く。まるで、この一時を堪能するかのように。
私がこんなことをするなんて、自分でも正直理解不能だ。私は人間が描く物語が好きだけど、決して人間個々に興味を持ったことはない。初めてマスターである沙織に、サーヴァントとして召喚された時も、特別この子に興味を持ったわけではなかった。しかし、日を追うごとに私は自然と彼女を見るようになったのだ。
そして、彼女は不思議なことに私を飽きさせない。凛としているのに、どこか儚げで。幸せそうに笑ったかと思えば、むすっと拗ねた顔をしたり。毅然とした態度をしていると思ったら、人目につかないところで涙してたり。
思い返すだけで、クスッと笑みがこぼれるほど、私は君に心を捕らわれている。そもそも私に心など、存在しないはず、なんだけどね。
マイルームに到着すると、私はそっと彼女をベットに寝かせた。眠っている沙織は束の間の家族と過ごす夢の時間に、笑みがこぼれていた。幻想の世界だけど、私にできるのはこれくらいだ。
沙織の黒髪にそっと触れる。大切にケアしているのだろう、さらりと私の指をすり抜けていく。
ふと、彼女が私のあの塔を見てみたいと言っていたことを思い出した。
束の間の休息だ。せっかくだから、マスターのために頑張ってみようか。
彼女の頬を優しく撫でた。
「行こうか、マイロード」