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Fate夢 短編集

第8章 【夏の思い出Ⅱ】FGO/ロマ二夢


走って、走って、突然、小さな段差につまづいてしまった。

『わっ・・!!』

ドスンと身体が地面に落ちて、浴衣もどろどろになってしまった。上半身を起こし、辺りを見渡すと、そこは呉服屋のおばあさんに教えてもらった秘密の花火スポットだった。今日、ドクターを誘おうと思っていた場所だ。無意識でも、此処に来てしまうなんて、私はきっと呪われている。私を追いかけていたドクターも、人混みで私を見失ったのか、どこにもいなかった。

『馬鹿だなぁ、私。あーもう・・・なんでっ・・・』

浴衣もどろどろで、化粧もきっと泣いたせいで落ちてるし、髪も走ったせいでぐしゃぐしゃだ。小さな鞄からハンカチと鏡を取り出して、濡れたところをふき取った。腕時計を見ると、もうそろそろ花火が始まるころだった。せっかくだし、勿体ないと思った私は、一人とぼとぼと見晴らしのいいところまで階段を上って行った。小さな丘を階段で登り切ったところで、ちょうどドーンと大きな花が夜空に咲いた。

『・・・綺麗、だなぁ』

懐かしさと同時に、一人で見ているという孤独とさっきの喪失感がこの花火を切ないものに変えていく。近くにあったベンチに腰かけて、どんどん咲く花火をぼーっと眺める。彼のために選んだ簪を手に取る。ふぁさ、とまとめていた黒髪が私の肩に降りてきて、頬を撫でる。勝手に期待してたのは、私だし、彼には何の落ち度もない。
わがままだ、私。

『あーもう、嫌になる・・・』

もういっそ・・・。そう思って簪をぶん投げてやろうと、右手を構えた途端に、大好きな彼の声がした。

「はぁっはぁっ・・やっ、と見つけた・・っ・・」
『ドク、ター?どうして此処に・・』
「はぁっ・・ごめん、隣・・いいかな?」

息を切らして汗だくのドクターはゆっくり私の座るベンチに近付く。構えた右手を一旦膝におろして、無言で端に移動した。二人並んでベンチに座って、無言になる。最初に沈黙を破ったのは私だった。

『お約束されていたんじゃなかったんですか?』
「・・・え?」
『先ほどの腕を絡めていた女性の職員の方です。・・・デートのお約束をされていたのでは?』
「ちがっ違うよ!あの子とは何にもないし、それに約束だってしてないよ・・」

嫌味ったらしい自分の声にさらに自己嫌悪になる。
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