第5章 【騎士と王】FGO/ギル夢/主人公・女騎士/切
静かにある者の家に入った。
ひたひたと歩く足音が聞こえるほど、寝静まった夜更けに、我はある者の家を訪れた。
我は気になって仕様がなかった。我直属の騎士、沙織。
最初は、こやつもすぐに死にゆき、またころっと人が変わるだけ。形式だけの任命儀式が面倒だと思ったぐらいだった。たが、こやつは死なない。何度も戦いを勝ち抜き、必ず我のもとへ還ってきた。
何度目の帰還か分からないが、ある時、こやつは普段と様子が違い、相も変わらず任務を達成してきたというのに、どこか落ち着かなかった。如何したものかと、初めてこやつに個人的なことを聞いたとき、こやつの目が真ん丸に見開き、呼吸が止まっていたのを今でも覚えている。あの顔は傑作だった。だが、答えを聞いた我は何故か腹が立ったのだ。
『っ・・・わたくしは、これから見合いをしてまいりますゆえ、慣れぬことに少々焦りを隠せないのでございま、す。・・王の御前で、このような私事を持ち込んだわたくしに、どうか罰を。』
女は何故か苦しそうに答えた。
「・・・そうか。よい、下がれ」
『・・ぁっ・・・・し、失礼致します』
つまらぬ答えだった。我は女に困ることも無し、今までなにも我を戸惑わせるものはこの世に存在しなかったのだ。その我が、たった一人の女騎士に心が揺れたのだ。
はっ!笑える話よ。
一国の王、この世の王とも呼べるこの我が、あんな小娘一人にその一瞬、魅了されたのだ。我は自分でも気づかぬ程、あの女騎士を気にかけ、心のどこかで我のモノだと勘違いしていたのだ。
確かに、あの女騎士は我のモノである。この世のすべては我の手の内だ。しかし、あの女騎士を我が物とし、シドゥリより近くに傍らにおくということは、あやつのこの国のためにもつ剣を取り上げる行為である。と同時に、貴重な戦力を己の手で自ら失い、民を危険に晒すということだ。王として、それはできない。
それだけあやつの影響力は甚大であり、容易にその立場を扱うことはできない。