第5章 【騎士と王】FGO/ギル夢/主人公・女騎士/切
血生臭い身体を湿った布で清めてから、寝間着に着替える。思わず、もう何度目かもわからないため息をついた。
騎士になりたての頃はこんな想いをするなんて、思ってもみなかった。昇格して、王の御前に初めて立ってからだ。
王であるギルガメッシュ様に、心焦がれ始めたのは。
けっして叶うことのない、初めての恋だった。巷で女が騒いでいるのはこのことかと、身をもって感じた瞬間だ。
生まれた時から剣技に憧れ、7つという歳で自力で魔獣を一体倒し、その姿を見た私の父は、私を神の子だと称賛した。
そして母に、
「お前は女だけれど、どの男の騎士よりずっと強いわ。大丈夫。世のため人のため、そしてこのウルクのためにその剣を構えなさい。そうすれば・・・」
母は、溢れる涙を隠すように私を抱きしめ、そして言った。
「そうすれば、きっと、あなたの願いを神はきっと叶えてくれるわ。どんな願いもきっと。だってあなたは、こんなにも・・」
傷つき、それでも、剣を構え、魔獣を殺したのだから。
そう言われた。
確かに7つの私は傷だらけになりながらも、脚を喰われた父を守ろうと、木材をとってくるために備えていたずっしりと重い斧を構え、戦い抜いたのだった。
だけど、違うよ母さん。
私は神の子でもなく、奇跡を起こした英雄でもない。父が死ぬという運命に抗い抜いた、ただ一人の、ただの人間だ。
若かった私は、世の何も知らぬまま、ただの民の一人から、自信と剣技の腕だけで宮廷騎士まで成り上がった。そして、このウルクの王に相応しい者になりたいと願い、戦い続け、王直属の騎士にまで上り詰めた。
そこまで登って、その先にはもう何もなかった。王はまた違う高みにいらっしゃったのだ。
こんなの届くわけがなかった。
そもそも世界が違ったのだ。
『ばかだな、私は・・・』
ゆっくりと寝床に横になる。外から差し込む月明かりは、私には暖かかった。月は母のようだ。静かに私を見守ってくれていた、母のようだ。
寝返りをうって、寝床から夜空に浮かぶ月を見た。
神よ。もし、許されるのならば。
今生では、共に慣れずとも、どうか・・・どうか、幾年、幾億年たってもいい。
遠い遠い未来、どうか、彼とせめて対等の立場で、彼と同じ景色を隣で見させてください。
疲れ切った身体は正直で、そのまま私は重い瞼を閉じた。
