第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
「あと少し遺品もあるのですが……隊服と彼がいつも提げていた数珠……それとそこの包みを……」
私はぼろぼろと涙を流しながら、黒い布の包みをそっと開くと……見たこともないような大金が……
「それは今までの彼の給金です。殆どが使われずに残されておりまして……
全て京子様とお腹のお子様に、と」
「えっ?」
「そんな物で貴女の気持ちが収まるはずもないのですが……お納め下さい」
「いえ、お腹の子に……とは……」
吃驚しすぎて、涙が止まった。
輝利哉君はニコリと笑うと
「行冥は存じておりましたよ。そして、産まれてくる子供には太陽の『陽』の字を付けて欲しいと……」
「…………」
「全て私からの言葉で申し訳ない。何もかも用意する時間がなく、戦いが始まってしまいまして……」
「いえ、違うんです。違うんです……輝利哉君……」
また涙が溢れ出した。
「京子様……」
「私、嬉しくて……ありがとう。ありがとうございます!」
行冥君は私を一人にさせないために、あの日希望を与え
そして彼は私が妊娠出来ると信じていたのだ……
私は彼の遺した物だけじゃない、彼の全てを……彼の生きた証まで手にした。
まぁ……でも……あの大きい数珠だけは……後で家に届けて貰ったんだけどね……
そして更に数ヵ月がたち
私は元気な男の子を産んだ。
身体の大きな行冥君にそっくりで、周りの人達が吃驚するほどの大きさだったけど、
先生と正一君だけは、驚かなかった。