第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
「父が、貴女だけはいつも近しい姉の様に接してくれていた、と申しておりました」
そ、それって私が無礼と言うか礼儀知らずと言うか……額にじわりと汗が滲む……
「父はそれに心が救われたと申しておりました。皆が当主として扱うなか、貴女だけは年相応の少年として接してくれていた、と……目を細めて話しておりました」
「そ、そうなんですね。私も耀哉君には凄く救われたの……」
バカにしてるわけじゃなかったのか……少しほっとしていると
「京子様は行冥も救っていますよ」
「え……」
ニコッと笑う輝利哉君。そして
「これは行冥が遺した物です」
そう言って二つの風呂敷包みを差し出した。
そのうちの一つは……
白い布で包まれていた……
「こちらは……申し訳なかったのですが、先に荼毘に付してしまったので……」
遺骨だった……
私はそれを膝の上に置くと、ギュッ抱き締めた。
あんなに大きかった彼が……
こんな小さな箱に収まるなんて……
信じられなかった……
「うっ……う……」
輝利哉君はこの戦いで、両親、そして二人の姉を失っている。
そんな辛い想いをした少年の前で泣くのは、とてもじゃないけど憚られた……
なのに……
「本当に申し訳なかった……」
頭を下げる輝利哉君……
本当は今の今まで、何処かで生きているんじゃないか、なんて甘い期待をしていた……
だからずっと涙が出なかったのだ。
なのにこの白い布に包まれた箱は……
その期待全てを、悉く粉々に壊していった……