第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
行冥君が私の手を握った。
「必ず鬼の居ない世界に致します。
京子と私の将来の為に」
私との将来……
行冥君の言葉と力強い手の温もりに、私の手の震えがピタリと止まった。
「……はい」
「京子は京子の思うままに生きて下さい。それが必ず、私達の将来に繋がります」
その時、行冥君の背負っている悲しみが少し薄らいだ気配がして……
今まで見た事がないくらい、優しく微笑んでくれた。
「はい。必ず……あの……行冥君……
貴方を心から愛しています」
恥ずかしくて、はっきりと伝えた事がなかった言葉だった。
「私もです。京子……貴女だけを生涯愛し抜きます」
私達は確りと抱き合うと、熱い口付けを交わした。
どこかの雑誌で見掛けたような……西洋の婚姻の言葉のようで……
そっと離れると、今度は笑顔で言った。
「御武運を」
手は震えていない。カチカチと透き通った火打石の音が響いた。
「必ず滅殺致します」
行冥君は私の笑顔を確認するように、そっと頬を撫でると……
「行って参ります!!!」
いつもよりも もっともっと大きな ドンッ と音をたて
土煙の舞う中
やはり一瞬で旅立って行ってしまった……