第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
いつもなら、すぐに気をやってしまって、そのまま眠りについてしまうのに、
私は何度も何度も行冥君をねだった……
いつもは手加減してくれていたのだろう……ううん、きっと今もまだ手加減してくれている……
だけどいつもより荒い呼吸と腰使いに、彼の本気を感じた……
だけど、いつの間にか空が白んできて……
私の意識は朦朧としている。
それでも私達は、お互いを貪り尽くすように
愛し合った。
だけど昼にはなんとか間に合うように、彼の好物の炊き込み御飯を用意した。
これから若い鬼殺隊員に稽古をつけるため、山に籠ると言っていたので、弁当も拵えた。
本当は、私が寝ている間に旅立つつもりだったらしい。
けど……
「私の想いは貴女の……いえ、京子の傍に置いて行きます」
行冥君は初めて私の名前を呼び捨てで呼んだ。
それだけで、胸が苦しくなって……
涙が溢れた……
「はい……」
「泣かすつもりでは……」
焦る行冥君……
「私は大丈夫。離れていても貴方をずっと照らし続けます。
だから、悔いのない様に戦ってきて下さい」
私は精一杯の笑顔で返す。
貴方が見えていなくても、好きだと言ってくれた笑顔で。
「はい。有難う御座います」
「御武運を……」
火打石を鳴らす手元が震える……
これで……これで、本当に最後……なの……