第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
「一緒だよ……行冥君……私も同じ気持ち……
だから、解るよ。貴方が私を突き放そうとする気持ちも……
私が反対の立場だったら、必ず帰る約束が出来ないのなら、誰か自分以外の人とでも幸せになって欲しい。そう思ったんでしょう?
でもね、それでも私は信じて待っている。
だけど……
私の事なんて考えずに、貴方が後悔しないように戦ってきて下さい。
それが私の一番の願いです」
私は一気に捲し立てるように思いを伝えた。
私の気持ちを伝えきる事が出来たのだろうか?
不安になって……下を向いた。
だけど下を向いたのは、私だけじゃなくて
「可哀想に……」
「え?」
行冥君が手を合わせて、涙を流している。
実はよく見かける光景だったんだけど、その言葉は今まで一度も私に向けられる事はなかった。
「私に肚の底から愛されて、可哀想に……」
「……そうだよ。私にはもう、行冥君しか見えない。でもね、それは凄く幸せな事なの……
だから、私の事をそんな風に言わないで……」
「…………御意」
「ふふ……」
この言葉は時々使う。初めて聞いた時は、びっくりしたけど……
だけど、きっと私達の時間は……もう……
「行冥君、お願い……今夜は貴方で一杯に満たして欲しい……壊れても構わない……
だけど……明日になれば……
私の事を愛してくれる行冥君は此所に置いて行って下さい」
その言葉がきっかけで
私達の短くて……
だけど永遠の様な夜が始まった……