第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
付き合いもそろそろ長くなってきた。
行冥君はいつの間にか『柱』と呼ばれる人達の中で、どうやら中心人物となっているようだ、と……先生が言っていた。
そんなある日、一人で訪れた行冥君は……
何故かいつもより、纏っている空気が重く……悲しいのか、何なのか……少し解りづらかった……
「出立は、明日の昼でいいんですか?」
「あぁ」
「じゃあ今夜は、ゆっくり出来ますね」
「あぁ」
「久しぶりに背中を流しても?」
「……」
返事のない行冥君。
「あ、その前に少し髪を切りましょうか?」
「頼みます」
「はい!」
縁側で鋏を持ち、少し伸びた髪を切る。
初めて会った時とは比べ物にならないぐらい大きくなった背中。
腕や首に掛けている数珠の様な物もだんだんと大きく重くなっている。
もう私の力では持てそうもない。
だけど変わらないのは、いつもの優しい手。
「はい。出来ましたよ」
私が鋏を床に置くと
「有難う御座います」
そう手を合わせてからそっと私の腕を引っ張り、私はちょこん と 行冥君の膝の上に座る。
そして行冥君の顔を見上げる。
「何か……辛い事でもあったのかしら……いつもと雰囲気が違うみたい……」
私は両の手で行冥君の頬を包んだ。
「……修行が足りませんね。貴女にそんな心配をかけさせるなんて……」
「そんな修行しなくていいよ。心配ぐらいさせて欲しい……」
私はそっと行冥君に口付けた。
最初は啄むだけの口付けだったのに……
だんだんと深く角度を変えて激しくなる口付けに、溺れそうになった……
その時