第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
「御武運を……」
私は門を出て、火打石をカチカチと鳴らす。
「また戻って参ります」
「その時は、炊き込み御飯用意しておくね」
「はい。宜しくお願い致します!!!」
そう言って、明け方のまだ誰も居ない門前で、私達は別れの口付けを交わす。
チュッと儚い音をたてて、唇が離れた。
「では、行って参ります!」
「気をつけてね!」
「御意!」
と笑顔で行冥君が答えた、と思った瞬間、昨日聞いた音よりも更に大きな
ドンッ!!!
という音と土煙を巻き上げて……
行冥君は行ってしまった。
「せ、背中を見送る事も出来ない……」
私は思わず呟くと、くすりと笑った。
そして……
程なくして、行冥君が『岩柱』になったと、連絡が入った。