第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
その日の夜
私は全ての行冥君を覚えておくつもりで、彼に抱かれた。
優しい口付けも、激しい口付けも
甘い愛撫も、逞しい身体も全て
朝まで彼と一つになりたかった。
でも、明朝出立する彼の負担にはなりたくなくて……
だけど……それよりも……もっと……
私達は一度だけゆっくりと愛しあうと、褥の上で沢山の話をした。
その沢山の話の中で一番、苦しかった話は
行冥君が鬼狩り様になった理由だった。
話を聞いた時は、あまりの衝撃で言葉も出なくて……
だけどその思いが、彼を鬼狩りへと駆り立てるのなら……
私はいつか鬼の居ない世が来て、行冥君の苦しみが晴れる事を願うしかなかった。
そして朝が近づく……
「時々、会いに来てくれる?」
「はい。ただ頻繁に訪れるのは容易くはないかと……」
「うん。でも待ってる」
「……その事ですが……もし、良い人が現れたのなら、私の事は捨て置いて下さい」
「そうだね……でも、そんな事言えなくなるぐらい、私の事を覚えておいて」
「勿論です」
そう言って私の事をぎゅっと抱き締めてくれるその手は、やっぱり何時までも側にはなくて……
二人の甘い時間はあっと言う間に出た、朝陽によって遮られてしまった……