第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
「こんなに長く滞在したのは初めてです」
「私もだよ。殆どの人は1日泊まれば出て行くから……挨拶もせずに出て行く人もいるしね」
「なんと!それは無礼な!」
「ふふ、いいのよ それで。私達の存在は鬼狩り様の為にあるんだから、でも……」
「……でも?」
私の次の言葉を待つ行冥君。
「こんな風に拘わる人が現れるとは、思ってもいなかった……」
私は髪を切る鋏を床に置くと、後からそっと行冥君に抱きついた。
「気をつけてね。私の事……時々でいいから思い出して……」
「いつも心の中に留め置きます」
「うん……ありがとう……」
私は行冥君の頬にそっと口付けた。
顔を真っ赤にした行冥君が、私を抱き締めようとした時、玄関から声がかかった。
「おおーい!お邪魔するよー!」
先生と正一君だ。
「はーい!」
私がパッと立ち上がると 行冥君は、私の手をとり、
「京子さん。正一君は照れているだけです」
そっと耳打ちしてくれる行冥君。
「え?」
「すぐに貴女と仲睦まじくなります」
「ええー嫌われてるよ?私」
「そのような事はありませんよ。さぁ」
私の手を取って立たせてくれる。
廊下を歩くときも、力強く手を握ってくれていた。
玄関に着くと、私達の絡み合った手を先生が、じっと見ている事に気付いた……
けど、私も行冥君も手は離さなかった。
離したのは、正一君が
「鬼狩り様っ!僕も一緒に手を繋ぎたいです!」
と、言って私達の間に入ってきたから……