第5章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 後編
朝食を食べ終わると、いつものように一人黙々と鍛練を始める行冥君。
私もいつも通りの日常を過ごす。
洗濯、掃除、買い物……
そして昼になり、手拭いを持って行冥君に声をかけに行く。
「お昼の用意が出来ましたよ」
手拭いを渡すために、そっと行冥君の手を取ると
ぎゅっと握り返され
「ありがとうございます」
いつもは手拭いだけを取っていたのに、私の手を握りながら汗を拭く行冥君。
そんな変化が嬉しい。
手を繋ぎながら中庭に面した廊下を歩いていると、行冥君の足がピタリと止まり……
一羽の鴉が飛んできた。
「ミョウチョウ、シュッタツ!ミョウチョウ、シュッタツ!!!トウホクトウ、トウホクトウ!!!」
私は行冥君の手をぎゅっと握り絞めた……
「……明日の朝……なんですね……」
「……はい」
「……髪の毛、少し伸びましたね」
「……はい」
「暗くなる前に……、少し切りましょうか?」
「京子さんが?」
「ふふ。駄目かしら?」
「いえ、お願い致します」
そう言うと、今度は行冥君の方から私の手を握り絞めてくれた。だけど……
「痛い、痛い!」
「いや!申し訳ないっ!!!」
焦って手を離す行冥君に思わず抱きつくと、今度は少し力を加減して抱き締めてくれた。
そして二人で笑い合う。
笑顔で別れる。
それは最初から 自分自身の心の中で 決めていた事だった。