第3章 藤の花の家紋の家 ~悲鳴嶼行冥~ 前編
そして 次にひめじま君が顔を上げた時は、何故だかさっきまでと違って、私に大して尊敬というか、感謝というか……なんだろう???
でも、まぁ、距離感が一気に縮まった。
間違いないのは、耀哉君の名前を出してからだ。
ほんと耀哉君は 凄い。
若くして当主に立つだけの人物だ。
私が、軽々しく名前でなんて呼んでいい人物ではない。
だけど……あのふわふわと高揚する声で
「京子さんは 大丈夫ですよ。貴女を返すなんて愚かな人もいるものだ」
私が離縁された報告をしに行った時の言葉だ。
珍しく少し怒った声色だった耀哉君。
だけど……その言葉を聞いて涙が出て……横にいたあまねさんが にっこりと笑って、とても良い匂いのハンケチ(ハンカチ)を渡してくれた。
なんて、そんな前の事を思い出しても仕方がない!
「とりあえず食べて元気になりましょう!」
私はひめじま君に大きな声で提案した。
すると先生が
「そうだな、しっかりと食事を摂ろう。肉も魚もしっかりと食べるように」
そう言うと
「いえ、私は殺生は……」
また、ボソリと呟くひめじま君。
「だめだめ、何を言っているんだ!その大きな身体を支える為にも、動物性の蛋白質は確り摂らないといけないよ!」
「肉も魚も食べないなんて……細いはずだわ……」
今度は私が呟いた。そして
「耀哉君から、ひめじま君を預かってるんだから好き嫌い言わずに確り食べて下さいね!」
「好き嫌い……」
そんなんじゃないと、否定したそうだったけど
私と先生の勢いに負けたひめじま君が
「はい。よろしくお願いいたします」
と頭を下げてくれた。